宮廷でモーツァルトのピアノ協奏曲を演奏したとき、
私は譜めくりを頼まれた。
弾いているあいだ中、ピアノの弦が切れて空中に
飛び、切れた弦にハンマーがからまった。
ベートーヴェンは、何とかして曲を弾き終えようと
必死の努力をつづけ、弾く手を止める間がある
たびに、私に向かって、
何とかして、ハンマーから
切れてからまった弦をはずしてくれ
と頼んだ。
私の仕事は彼におとらずたいへんだった。
右や左へとんでいって、ピアノのまわりを走り
まわりながら、引っかかったハンマーをはずし
続けなければならなかったのである。
ライヒャー 1805頃
‥‥ベートーヴェンはピアノの不完全さについて
ひどく不満を述べたて、
こんなピアノでは、効果のある音も
力強い音も、出すことができない
と言ってピアノを指し示した。
私の目にうつったのは、なんと惨憺たる光景
だったことか。
高音部はもはや全然音が鳴らなかったし、
切れた弦がからまって、まるで嵐の突風に
吹き寄せられた、イバラのかたまりのような
ありさまだった。
シュトゥンプ 1824 C |

フランス エラール社製造
ベートーヴェン使用のピアノ

イギリス製 1800年頃
ベートーヴェン使用と同型の
機種

ベートーヴェン
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